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きょうはなんの日? 『盗聴 二・二六事件』(中田整一著、文藝春秋)を読んだ

先日さる用事で百道の博物館に行った帰り、総合図書館でブラブラ。平日なのにすごい人。きょうび、書店でこんな人出を見かけることはない。複雑な気分。
で、お目当ての本を探し当て、近くの書架をながめていると偶然この本が。昨年のちょうどいまごろに出版され、たしか毎日新聞の書評欄で紹介されていたのだが、いつか読みたいと思っていたのだ。
著者の中田整一さんは元NHKのディレクターで、1941年生まれの方。偶然だが、大学の大大大先輩だった。
本書のもとになったTVドキュメント『戒厳指令「交信」ヲ傍受セヨ 二・二六事件秘録』は1979年に放映され、大きな反響を呼び、その年の放送文化基金賞を受賞した。
二・二六事件を計画した陸軍将校たちの電話での会話が傍受(盗聴)され、残されていたという事実にまず驚く。会話は陸軍上層部と逓信省の協力で、当時の最新技術を駆使して、計画段階から傍受(盗聴)され、録音盤の形でNHKライブラリーの書庫に眠っていた。書庫の整理をするなかでこの録音盤を発見した中田さんは、生き残りの関係者のもとを訪ね、TVドキュメント化する。2003年にも再放映らしいのだが、うっかり見逃していた。二・二六事件についてはずっと以前、若山富三郎の安っぽい映画(タイトル不明。Vシネマっぽいやつで「日本暗殺秘録」ではないやつ)を見てからなんだか気持ちの悪い感じが残って、あまり深くつっこむ気にならなかったせいもあった。
さて本書ではさらに放映後、「録音をしたのは私です」と名のり出た当時の陸軍情報参謀の証言や、二・二六事件の裁判を担当した検察官の記録、さらに上官の説得によって決起部隊から離脱した軍曹の証言等と事実関係を照らし合わせながら、事件の真相に迫っていく過程が描かれている。
歴史に埋もれゆく傷痕のかさぶたが一枚ずつ剥がれ、鮮血に染まった傷口が徐々にあらわになっていく。だがその傷を癒えぬことのない深手としたのは、実は青年将校たちがもっとも頼りにした真崎甚三郎陸軍大将や香椎戒厳司令官、山下泰文少将(後に大将。山下清の「裸の大将」の名の由来になったんじゃないかと思っているのですが。雰囲気も似てるし)といった上層部だったのだが、陸軍の影響力を拡大しようとする対抗勢力の圧力により、真相は闇に葬られてしまう。
また「日本改造法案大綱」を著し、鎮圧後、青年将校などとともに処刑された思想家・北一輝から現場で指揮をとっていた安藤大尉にかけたとされる電話が実は「ニセ電話」で、北一輝や西田税といった人物を事件の黒幕として「でっちあげ」るために陸軍が打った芝居なのではないかいう推理をめぐらせる部分は、特に緊張が走るシーン。今となってはその真偽を立証する手だてもないが、電話の時間的な経緯がどうしても事実と符合しないため、今後も火種として残されるだろう。
戦後も隠れるようにしてひっそりと生きつづけた関係者たちの心境を思うと、哀しく、虚しい複雑な読後感が残ったけど、『沈黙のファイル 「瀬島龍三」とは何だったのか』(共同通信社社会部)や『阿片王 満州の夜と霧』(佐野眞一著)『夢顔さんによろしく』(西木正明著)など、第二次大戦ごろの裏面史って、やっぱり面白い。

(石風社/藤村興晴 記)

*ちょっとアップが遅れましたが2/26に書いていたものです。

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