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読書のへぇ〜

第2回「その作品は何歳で書かれたのか」

ある夜、5〜6名で酒を飲んでいたときのこと。
ベテラン編集者某氏がきり出しました。
「例えば漱石なんて、12、3歳で一度読んで、そのあとしばらく、いやずっと読まなかったりするでしょう? だけど歳とってもう一度読むと、また違った感じがするんですよ。たとえば漱石がその作品を書いた年齢を調べて読んでみると、もっと面白いと思うんですがね……」


なるほど。あまり考えたことなかったなあと感心していると、となりにいた知人N氏がしたり顔で、 「へへへ。『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーが22歳くらいで書いたものなんだよね。やっぱり天才は違うよね」 と言うではないですか。
その時は真偽のほどを疑わず、 「へぇ〜。知らんかったです。さすがですねぇ」
と適当なあいづちを打っていたのですが、本コーナーが始まったのを機に、独断で選んだ古今東西の作品について、いったい何歳のときに書かれたものか調べることにしました。以下、若い順に並べてみました。


まずは10〜20代から。

作品 作者 発表年 生年 年齢
地獄の季節 ランボー 1873 1854 19歳
静かなるドン ショーロホフ 1926 1905 21歳
羅生門 芥川龍之介 1915 1892 23歳
仮面の告白 三島由紀夫 1949 1925 24歳
若きウェルテルの悩み ゲーテ 1774 1749 25歳
V.

トマス・ピンチョン

1963

1937

26歳

オリバー・ツイスト

ディケンズ

1839

1812

27歳

ゴーゴリ

1836

1809

27歳

舞姫

森鴎外

1890

1862

28歳

抒情詩集

ワーズワース

1798

1770

28歳

緋色の研究
(ホームズが初登場します)

コナン・ドイル

1887

1859

28歳

大菩薩峠

中里介山

1913

1885

28歳

注文の多い料理店

宮沢賢治

1924

1896

28歳

異邦人

カミュ

1942

1913

29歳

車輪の下

ヘッセ

1906

1877

29歳

あめりか物語

永井荷風

1908

1879

29歳

グレート・ギャツビー

フィッツジェラルド

1925

1896

29歳


ちなみに一人の作家につき、比較的若い時期の代表作を選んでいます。また「当時の年齢」は単純に発表年から生年を引いた数字です。もしかしたら前後1歳の違いがあるかも知れません。

さて最近、平野啓一郎さんをはじめ、20代の芥川賞作家が多いようですが、『地獄の季節』(ランボー)の19歳と、『静かなるドン』(ショーロホフ)の21歳ははやはり絶叫ものだと思います。ことわるとすれば、『静かなるドン』はこの歳に執筆を開始し、35歳になってやっと完結した作品です。
意外だったのは『車輪の下』(ヘッセ)の29歳。もっとオジンが書いているような印象でした。 それにしても『大菩薩峠』(中里介山)の執筆開始が28歳だなんて。ジジ臭すぎです。ちなみにこの作品は1941年まで書きつがれ、未刊のまま終わりました。栗本薫さんの『グイン・サーガ』に抜かれるまで、日本で一番長い小説だったそうです。


次に30代。三十路です。

作品 作者 発表年 生年 年齢

武器よさらば

ヘミングウェイ

1929

1899

30歳

タイムマシン

H・G・ウェルズ

1896

1866

30歳

パリ・ロンドン放浪記

オーウェル

1933

1903

30歳

吠える

アレン・ギンズバーグ

1956

1926

30歳

D坂の殺人事件

江戸川乱歩

1925

1894

31歳

夜間飛行

サン=テグジュペリ

1931

1900

31歳

変身

カフカ

1915

1883

32歳

響きと怒り

フォークナー

1929

1897

32歳

アメリカの鱒釣り

ブローティガン

1967

1935

32歳

ヴェニスの商人

シェイクスピア

1597

1564

33歳

不思議の国のアリス

ルイス・キャロル

1865

1832

33歳

鳴門秘帖

吉川英治

1926

1892

34歳

ティファニーで朝食を

カポーティ

1958

1924

34歳

ガラスの動物園

テネシー・ウィリアムズ

1945

1911

34歳

蘭学事始

福澤諭吉

1869

1835

34歳

ゴリオ爺さん  

バルザック

1834

1799

35歳

路上

ケルアック

1957

1922

35歳

正統とは何か

チェスタートン

1909

1874

35歳

ドリアン・グレイの肖像

オスカー・ワイルド

1890

1854

36歳

ガープの世界

ジョン・アーヴィング

1978

1942

36歳

戦争と平和

トルストイ

1865

1828

37歳

怒りの葡萄

スタインベック

1939

1902

37歳

精神現象学

ヘーゲル

1807

1770

37歳

駱駝祥子

老舎

1936

1899

37歳

吾輩は猫である

夏目漱石

1905

1867

38歳

夜の果ての旅

セリーヌ

1932

1894

38歳

暗夜行路

志賀直哉

1921

1883

38歳

ジャンキー

バロウズ

1953

1914

39歳

ヒステリー研究

フロイト

1895

1856

39歳


さすがに多いです。やはり活力に満ちてくる年代なのでしょうか。
しかし『鳴門秘帖』(吉川英治)と『ティファニーで朝食を』(カポーティ)が同じ歳の作品だなんて。笑えます。 小説ではありませんが、『精神現象学』(ヘーゲル)の37歳はすごすぎます。きっと60歳になっても理解できそうにありません。

ちなみに筆者は現在33歳。同じ歳で探してみると……。『ヴェニスの商人』(シェイクスピア)。さらに『響きと怒り』(フォークナー)は32歳。悔やんでももう遅いですが一年すぎています。イヤになります。


そして40代。不惑。人間、脂がのってきます。

作品 作者 発表年 生年 年齢

ユリシーズ

ジョイス

1922

1882

40歳

恐るべき子供たち

コクトー

1929

1889

40歳

阿Q正伝

魯迅

1921

1881

40歳

ツァラトゥストラはかく語りき

ニーチェ

1885

1844

41歳

或る女

有島武郎

1919

1878

41歳

トム・ソーヤーの冒険

マーク・トウェイン

1876

1835

41歳

悪魔の詩

ルシュディー

1989

1947

42歳

愛について語るときに我々の語ること

レイモンド・カーヴァー

1981

1939

42歳

失われた時を求めて

プルースト

1913

1871

42歳

蝿の王

ゴールディング

1954

1911

43歳

モモ

エンデ

1973

1929

44歳

オリエント急行殺人事件

アガサ・クリスティ

1934

1890

44歳

こころ

夏目漱石

1914

1867

47歳

複製技術時代の芸術

ベンヤミン

1939

1892

47歳

スローターハウス5

カート・ヴォガネット

1969

1922

47歳

資本論

マルクス

1867

1818

49歳

魔の山

トーマス・マン

1924

1875

49歳


『ユリシーズ』(ジョイス)の40歳。文学史上の奇跡といっていいのではない歳でしょうか。 いっぽう、『トム・ソーヤーの冒険』(マーク・トウェイン)や『モモ』(エンデ)は意外に歳食ってませんか。
アガサ・クリスティも遅咲きです。ちなみに彼女は、聖書に次いで世界で一番読まれている作家(10億部以上!)だそうです。


最後にそれ以降の作品。

作品 作者 発表年 生年 年齢

悪徳の栄え

サド

1794

1740

54歳

カラマーゾフの兄弟  

ドストエフスキー

1880

1821

59歳

レ・ミゼラブル

ユーゴー

1862

1802

60歳

ロング・グッドバイ

チャンドラー

1953

1888

65歳

波止場日記

ホッファー

1969

1902

67歳


すでにお気づきかと思いますが、『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)は59歳でした。Nさん! こないだブックオカの会合で受け売りで言っちゃったよ! 
さらに、結局わかりませんでしたが、史上最高齢で書かれた作品はいったい何歳なのでしょうか。気になります。

以上、調べればもっともっと面白いデータになるはずですが、今日はこのあたりで。