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読書のへぇ〜

第3回「当世書名考」

本のタイトルは重要です。
だって、それで売れるから。

身も蓋もない出だしですが、本にとって重要なのは「1にタイトル、2に装丁、3、4がなくて5が中味」なんて編集者もいるくらいですから、本が売れない、読まれないなんていう前にそこんとこ一度考え直したほうがいいんじゃないでしょうか。
ということで今回のテーマは本のタイトル(書名)。


まず最初に思ったのは、「タイトルはいったい誰がつけるのか」ということ。
一番多いのは作者、次に編集者もしくは両者の相談によるものでしょう。
次に、意外に思われるかもしれませんが、出版社のいわゆる営業マンがつけたタイトルというのもあります。


たとえば小原秀男さんという人の著した『ツルはなぜ一本足で眠るのか──適応の動物誌』。出版社は最近世間を賑わした草思社。たしかもとはサブタイトルの方がメインだったようですが、営業マンが「これでは売れない」と一念発起、本文のゲラ(校正紙)を読み直し、結局、中の小見出しからタイトルに採用したそうです。たしかに『適応の動物誌』と『ツルはなぜ一本足で眠るのか』ではインパクトがちがいます。


草思社は以前からタイトルがうまい出版社として業界でも有名でした。
最初に有名になったのはいわずとしれた『間違いだらけのクルマ選び』です。現在、最終刊の35巻目で、何と30年以上のロングセラーシリーズだそうです。
翻訳ものでいうと『平気でうそをつく人たち』が代表格でしょう。原書のタイトルは“PEOPLE OF THE LIE”。直訳すると「偽りの人々」になります。「平気で」をつけたところがポイントでしょう。

そして『男の子ってどうしてこうなの?』。原書は“MANHOOD”。直訳すると「男らしさ」。父権論者のオヤジたちあるいはもてないクンたちが手に取りそうなタイトルです。『愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史』。原書は“Anatomy of Love”で「愛の解剖学」です。禁断小説の匂いがします。
さらに最近では『声に出して読みたい日本語』などが大ヒット。かなしい結末を迎えつつある同社ですが、見習うべき点が多くあります。

さて一時期からいわゆる「二匹目のどじょう」狙い、つまり「パクリ本」が増えてきたように思います。


最近やたら眼につくのが「超〜力」「〜の技術」「〜の法則」「〜の習慣」「すごい」「なぜ〜は〜か」「だれでも〜できる」「すぐに〜できる」「一日でわかる」などのターム。ビジネスや自己啓発本に多いようです。
ビジネス本には時代によって傾向が強く出るのが特徴です。『さおだけ屋はなぜ〜』や『社長のベンツはなぜ〜』など、一見脈絡のなさそうなナゾをかけておいて、「なぜ」で読者を釣る感じ。お手軽な感じがいなめませんが、次々と類似のタイトルが出版されています。

さらに『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』といったSFのヒット作をパクった『テレビはインターネットの夢を見るか』というケースもあります。
『世界の中心で愛を叫ぶ』といったベストセラーも、SFの『世界の中心で愛を叫んだけだもの』からから想を得たものだそうです。ちなみに作者がもともとつけていたタイトルは「ソクラテスの恋」だったそうで、編集者がつけなおしたタイトルが大ヒットし、一時期、編集者本人が業界誌にデカデカと紹介されていました。古今の文学に通じておくのも編集者の条件なのかも知れません(どうだか)。

パロディとパクリの紙一重といったものもあります。例えば『金持ち兄さんの王道』や『金持ち母さんになるための42の法則』(元ネタ『金持ち父さん、貧乏父さん』)。
『ドップリ! たった4分間で自分を変える方術』(元ネタ『キッパリ! たった5分間で自分を変える方法』)というものもあります。キワキワです。

こちらはパロディでしょうが、水道橋博士の『筋肉バカの壁』。元ネタはもちろん『バカの壁』でしょうが、著者・養老孟司氏自ら『死の壁』などの「壁シリーズ」を刊行しています。これは恐らく、出版社サイドに節操がないのでしょう。

最近では『インド式計算ドリル』を出版した晋遊舎が『頭が良くなるインド式計算ドリル』というタイトルを出版したKKベストセラーズに抗議書を送ったという珍事も報じられていて、ますますわけがわかりません。


最後に心あたたまる(?)話題を一つ。
イギリスの『ザ・ブックセラー』という業界誌が毎年開いている「世界で最もヘンな書名」にあたえる「ダイアグラム賞」の候補が発表されました。以下、剽窃ではなく引用(抄録)です。
            *        *
【2月23日 AFP】英国の出版業界誌「ザ・ブックセラー(Bookseller)」が毎年「世界で最もヘンな書名」に与える「ダイアグラム賞(Diagram Prize for Oddest Book Title of the Year)」の候補作が発表された。
栄えあるダイアグラム賞候補作は以下のとおり:

"I Was Tortured by the Pygmy Love Queen" (『わたしは愛の女神ピグミーに拷問された』)/ジャスパー・マカッチャン
"How to Write a How to Write Book" (『本の書き方に関する本の書き方』)/ブライアン・パドック
"Are Women Human? And Other International Dialogues"(『女性はヒトか? その他の国際的対話』)/キャサリン・A・マッキノン
"Cheese Problems Solved"(『チーズの問題は解決した』)/P・L・H・マクスウィーニー
"If You Want Closure in Your Relationship, Start With Your Legs" (『関係を終わらせたいなら、脚を閉じることから始めなさい』)/ビッグ・ブーム
"People who Mattered in Southend and Beyond: From King Canute to Doctor Feelgood" (『サウスエンド以南で重要な人々:イングランド王カヌートから覚醒剤処方医師まで』)

 

 前年のダイアグラム賞は、ジュリアン・モンタギュー(Julian Montague)の"The Stray Shopping Carts of Eastern North America: A Guide to Field Identification"(『北米東部で迷子になったショッピングカート:フィールド識別のためのガイド』)。 

 ダイアグラム賞は1978年に創設された。第1回受賞作品は "Proceedings of the Second International Workshop on Nude Mice"(『第2回裸のマウスに関する国際ワークショップの議事録』)だった。


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