佐々木中さんの来福に寄せて

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いよいよあと1週間とちょっと後には佐々木中さんがこのBOOKUOKAのイベントにご登場いただけます。
この春、実行委員会議で「佐々木中さんを是非お呼びしたい」と提案させて頂きこの日を迎えるまで、
本当に楽しみで楽しみで仕様がありませんでした。

●今回多くの方に佐々木さんのことを知って欲しくて、恐縮ではありましたが、
今年のBOOKUOKA公式パンフレットに、佐々木さんについての原稿を寄せさせて頂きましたところ、
たくさんの方から「あの文章を読んで、参加を申し込んだよ」と有難い言葉を頂戴したので、
恥ずかしながら先ずここでその記事を再度ご紹介させて頂きます。
コチラ>>

●そして、今回会場をご提供頂く西南大学には、学内の告知でもご協力を頂いておりますが(感謝!!)、
当校図書館のご担当者様から「佐々木さんのことを全く知らない10代の若者に1000円(※学生料金)を
出してでも見るべきだ、と感じてもらえる文章を頂けませんか?」とこれまた大変な宿題を頂戴し、
ウンウン唸りながら、下記のような文章を書きました。
出来が心配だったのですが「あなたが佐々木さんに惹かれる理由がわかりました」と
嬉しいお言葉を頂戴しましたので、拙稿続きでアレですが、こちらも掲載させて頂きます。
是非ご一読頂き、興味を抱かれた方は参加お申込、お待ちしています!

↓ ↓ ↓ ↓

10代の皆さんへ。

私が大好きなこの佐々木中という人を皆さんに紹介するにあたって、
彼の“哲学者・理論宗教学者”という肩書が、あるいは彼の独特な文体が、
「おや佐々木中さんというのは、難しそうな学者さんなのかな」
「自分とはどうも縁がなさそうだ」と思われてしまうきらいがあります。
そしてそれはどうにか避けたい展開です。

なぜなら私には、これから多くの不安や絶望に立ち向かっていくべき10代の皆さんにこそ、
この人が放つ言葉が、大いに勇気を与え・鼓舞するものだと思えてならないからです。

だから今回は、私が彼を知るに至ったきっかけを、少しだけ詳しくご紹介することにします。
佐々木中氏の放ったものが反響して新たなメッセージを生んだ、あるエピソードです。

私の大好きなラジオ番組の『Rhymester宇多丸のウィークエンドシャッフル』は、
日本のヒップホップユニットRhymester(ライムスター)の宇多丸(うたまる)という
男性がパーソナリティをつとめるプログラムで、
そのなかに、映画に詳しい宇多丸氏が自ら見に行く映画をサイコロを振って決め、
見てきた映画を批評する「シネマハスラー」というコーナーがあります。

その日あたっていた映画はクリント・イーストウッドの『インビクタス:負けざる者たち』(2009年アメリカ)。

映画のストーリーは、1994年、27年間の投獄生活を経て、
南アフリカ共和国初の黒人大統領となったネルソン・マンデラが、
人種差別と経済格差が根強く残る自国を再建すべく、
同国代表ラグビーチームの白人キャプテンとともにワールドカップ制覇へ向け
奮闘する姿を描くというもの。

この歴史上の実話に基づく、さして派手な演出が用意されているわけでもない
映画を紹介するにあたって宇多丸氏は、ちょっと上気したようなトーンで語り始めました。

この映画では、“奇跡”としか言いようがない出来事を実現していく人間たちの姿が描かれるわけですが、
その“不可能”を“可能”にするカギは、果たして何だったか、というところに、
この回の批評の熱がもっともこもったのでした。
―さてそれは何か?

それはまず、マンデラが獄中で出会ったある一遍の詩でした。

ここではあえてその詩の内容がどのようなものだったかは触れられませんでしたが、
むしろ重要なのは、獄中で絶望に暮れる人間を鼓舞したのが、たった一遍の詩だったことであり、
そこから文字通り、国中がひとつになって揺れるような“奇跡”が導かれるようなことが、
歴史上に我々人類の物語として実際に起きた、ということです。

また劇中ではラグビーチームが逞しくなる過程で、
マンデラが一人ひとりのメンバーと挨拶を交わすシーンがあるそうです。
その“挨拶”という、芸術や表現よりもずっと手前の、
あまりに日常的な行為がもたらすポジティブな“予感”。
しかしそれが積み上がっていくことで奇跡が生み出されたという
この事実を知ってしまったら、我々もまた、
日々の何気ないやりとりが実は希望につながる大いなる一手になっていることに気づくはずだ、
と宇多丸氏は語ります。

そうして彼の映画評はこのように締めくくられるのでした。

僕らは決して“ニヒリズム―あらかじめ冷めた・諦めたようにしてコトに臨むような態度―”に陥ってはならない。
そんなのはもうやめにして、何度でも、芸術や表現の、あるいは我々の
日々の営みそれ自体がもつ“希望”を信じ抜き、賭けてみよう。
それこそが我々を“負けざる者”―勝ち続けるわけではない、しかし決して
絶望に屈しない者―にすることだ、と。

そして、今回の映画評の多くは、佐々木中の著作にインスパイアされたものです、と。

―かくして私は佐々木中氏の存在を知り、彼の著作を買い・読み始める訳ですが、
以降、佐々木氏の著作を読んで得る感覚は、このとき宇多丸氏が教えてくれた感覚と、
ずっと離れることなく、むしろ読むほどに、ここで語られた“日常に隠れた変革への予感”のようなものを、
身体に刷り込んでいくような昂揚感があり、これは是非若い皆さんに届けたいと思うものでした。

最後に。
佐々木氏は今回福岡にいらっしゃるのは初めてで
「とても楽しみにしています」と仰っていました。
皆さんの若いまなざしが、彼のどんな言葉を引き出すのか、
私も是非その現場でいっしょに味わってみたいと思います。

会場でお会いしましょう!

ブックオカ実行委員(ラブエフエム国際放送) 三好剛平

佐々木中さん講演イベント詳細へ>>
●文中で紹介されたRhymerster宇多丸氏のシネマハスラー当該回の音声ファイルはコチラで視聴可能です>>
●佐々木さん、新刊が2冊も連続で刊行されています。今回も本当にイイです。
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左「アナレクタ3―砕かれた大地に、ひとつの場処を」/右「しあわせだったころしたように」