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ありがとう、そしてさようなら

「“読む前の自分には戻れない”
そんな本が、誰にだってきっとあるはず。」と生野嬢は言いました。
私、あります。
恥ずかしいからほんとは酔った時しか話したくないネタなのですが・・・。

あれは忘れもしない大学3年生の夏。
当時の私は、遅咲きの狂い咲きの思春期真っ盛り。
キャンパスライフにもいまいちなじめず、えもいわれぬ虚無感で一杯で
いつもよれよれしていました。
そんなある日のこと、行きつけの古本屋で出会った一冊の本が
高野悦子の『二十歳の原点』でした。
言わずと知れた学生運動と青春に夢破れ、自ら命を絶った女子大生の日記です。
まさに我が身をあらわすようなタイトル!手にとらずにはいられませんでした。
と言うか確かに、あの新潮文庫の灰色の背表紙が私に手招きしました。

その日の我が青春日記にはこう記されてあります。
「たまらなくショウゲキ的な本に出会ってしまった。
いっそのこと出会わない方がよかったんじゃないの?
すごい、すごい。
みんな悩んで苦しんで大人になって、だから私もそうやって大人になるんだ。」
ですって。きゃ~若さゆえ・・・。
しかしその時の私は、自分と同じような考えを持った人と30年のときを経て、
本によって出会ったということに、なにか運命的なものを感じたのでした。
日々は暗くうんざりだけど、私だけのつらさじゃない。
それは治ちゃん(太宰)や他の作家達も教えてくれたけれど、
もっと私の小さな日常に潜む鬱々としたもの、異性との接し方まで
深く琴線に触れたのは、悦子さんの本が初めてでした。
ひどく真面目で、だいたいの物事を杞憂に考えていたクリタ少女でしたが、
「何だかよくわからないが、読んでしまったからには前進せねば」と心に誓ったのでした。

悦子さんは死に向かうのですが、クリタ少女は生に向かいました。
それ以降、もやもや霞んでいたまわりの景色に、序々にうっすら明るい光が見え始めた
気がしたのを覚えています。
こうして一冊の本によって、私の第一次思春期は幕を閉じたのです。

きっと誰だって経験する青春の一ページ。
出会いは、音楽だったり映画だったり人だったり様々でしょう。
私の場合、たまたま本でした。
でもこんな出来事、あとからいくらでも追加可能なきらきらした思い出のおはなし。
ただ、10年経った今でもこの読書体験を鮮明に覚えているからこそ、
やっぱりまだまだ、本が果たす役目はあるんだっていうこと信じているんだと思います。

二十歳の原点
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